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ペレアスとメリザンド [オペラ]

新国立劇場21-22年度最終演目ペレアスとメリザンド、76日の公演をみた。かなり意外な事実だが、コンサート形式でないペレアスとメリザンドは創立25年の新国立劇場で初の公演であるという。歌手がそろわない、指揮者がいない、演出がないなどあるのだろうけれど、結局は客を呼べないということなのだろうか。オペラ情報センターの日本のオペラ公演記録を見ても、オーケストラの定期公演でコンサート形式はそれなりにあるが、舞台公演は4回ほどしか見当たらない。私自身ももちろん初めての鑑賞である。ドビュッシーのピアノ曲、オーケストラ曲、室内楽、歌曲などは確認したわけではないが、コンサートで演奏が少ないという印象はない。


今回の5回の公演はこの日以外はすべてマチネー。(新国立劇場の公演は夜の公演は1回のみが多い。)今日の入りはざっと見て8割ほど。チケットぴあの各日の状況をみても売り切れはほとんどD席のみだった。今シーズン最後の、芸術監督大野和士の直々の指揮を考えてもややさみしい。


さて肝心の公演の中身だが、まず演奏についてさすがに大野の指揮、東フィルの演奏で素晴らしい音楽が鳴っていた。第一部1幕から3幕、第二部4幕、5幕合計3時間半、途切れがなく、大げさなクライマックスもないドビュッシーの音楽はうねるようにとうとうと流れていた。歌手陣についても全員素晴らしい歌唱で、特にベルナール・リヒターのペレアスが印象的だった。メリザンドのカレン・ヴルシュについては役柄から歌の力や技巧が求められるのではないので、どちらかといえば演技さらに言えばビジュアルが素晴らしかった。何度も下着姿になり、性的な演技があるので、はらはらドキドキしながら見ていた。舞台上にはメリザンドの分身の同じ衣装、体形の演技役がいるのだが、むしろその分身よりも性的な演技が多い。演出的にはどのような意味なのだろう。


今回の公演でよくも悪くも一番の注目はこの演出にあるだろう。ケイティ・ミッチェルは1964年生まれ、ヨーロッパの歌劇場で活躍してきたイギリスの女性演出家。ここ数十年のヨーロッパ風読み替え演出を進めてきた演出家なのだろう。当然メトの演出はない。このところ新国立劇場の演出は思いっきり保守的なものと現代的なものの両極端が多い。物語全体はメリザンドの夢の中の物語として描かれる。そしてメリザンドの無言の分身はメリザンドの心の中にある、あるべき自分の姿を現し、カレン・ヴルシュが演じる歌手はゴロー、ペレアス、アルケルとの男性から求められる女性の姿を現す。当然歌手の方がより露骨に性的な描写が多い。分身の方はたいてい男性の隣で静かにしている。舞台はステージのやや奥まった位置にあり、ホテルの一室と家族が食事などをする部屋と階上のバルコニーが入れ替わりで上手にあり、下手は上下をつなぐ螺旋階段がある。上手と下手で同時に演じられることは少なく、奥まった位置のさらに小さい空間で演じられる。いい意味では非常に凝縮された空間であるが、オペラ的な華やかさは全くない箱庭的空間。ただ、そこで演じられる内容は性的に刺激的なものとなっている。


ペレアスとメリザンドはアンチワーグナーの作品と言われる。確かにワーグナーの雄弁で、物語のすべてを描き出す楽劇とは正反対。主人公のメリザンドは初めから終わりまで何を言いたいのか全くとらえどころのない役だ。ドビュッシーの音楽は、とうとうと流れるがクライマックスや雄弁さは感じない。アンチワーグナー、アンチドイツは分かるが、何を言いたいかはわかりにくい音楽だ。ドイツ風のどこまでも明晰で理詰めのオペラに対するアンチテーゼとして謎の多い、聞き手の想像力を試される音楽に、今回はかなり明確なというか露骨で性的な舞台を作っている。ペレアスとメリザンドのあまりにも刺激のない、のっぺりとしたフランスのオペラに、イギリスの女性演出家が出した答えがこれなのだろう。


 ここまで書いてきてドビュッシーのとらえどころのない音楽に対して、明確なメッセージを打ち出した刺激的な考えさせる舞台であったことがわかってきた。しかし、オペラ的に見て楽しめたかというと個人的にはそうは思えない、むしろ疲れた。それもワーグナーを聴いて感じる疲れとは異質なものだった。オペラに求めるのは、照明、装置、衣装など華やかな舞台、心の底から響く名歌手の歌唱、指揮者とオーケストラ、合唱が奏でる揺るぎのない音楽だ。25年に1度でいいのかもしれない。


今回の席は本当に久しぶりにZR17番でみた。10時ちょうどにセブンイレブンに行き、取ることができた。指揮者とオーケストラに近く、舞台は見えにくい。常に右側をのぞき込む姿勢で、翌日は首が痛かった。正面の席であれば違った印象となった可能性はある。


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